糖化ケア講座

2020年2月13日

紫外線によって生じたAGEsの蓄積は見た目の若さに影響する

BTRアーツ銀座クリニック 院長 市橋 正光 先生

光老化とAGEsの悪循環が肌の衰えを加速する

心身の若さや健康状態は見た目から推察できます。それが最も顕著に現れるのが、生体最大の臓器といわれる皮膚。年齢を重ねると、皮膚にはシミ、シワ、たるみ、くすみといった老化の特徴が現れます。皮膚の老化には、加齢による内側からの老化と、太陽光線による老化(光老化)などの外側からの老化がありますが、近年ではこのどちらにも関与する老化物質として、AGEs(Advanced Glycation End Products:終末糖化産物)が大きく注目されています。

AGEsとは、タンパク質の糖化反応によって作られる生成物の総称であり、加齢現象や健康に関わる物質として知られています。糖化反応は、1912年に発見した科学者の名からメイラード反応とも呼ばれますが、以来100年以上が経過しているにもかかわらず、AGEsと皮膚の老化、特に光老化との関係が科学的に示唆され始めたのはわずか20年ほど前のことです1)

光老化とは、紫外線をはじめ可視光、赤外線を含む太陽光線を浴び続けることにより皮膚が老化することです。地表に届く紫外線は肌の細胞の中の遺伝子に傷をつけたり、活性酸素を発生させることから、シミ、シワ、たるみなどが生じる皮膚の老化を促します。また紫外線が原因となる炎症や活性酸素は、糖化を進め、AGEsを生成することで、皮膚の細胞・組織に損傷を生じさせ、皮膚の老化を進めます。さらにAGEs自体も炎症を引き起こすため、この悪循環が皮膚の老化をさらに加速させているのです。

皮膚の老化を促すAGEsの働きと紫外線の関係

AGEsは、タンパク質や脂質が糖と結びつくことにより、全身すべての組織で生成されます。以前は皮膚のコラーゲンなど、代謝されにくい寿命の長いタンパク質にAGEsが蓄積しやすいと考えられてきました。しかしながら、皮膚組織の90%を占め、寿命がわずか数十日と短い角化細胞内にも蓄積することも、近年明らかになってきました2)3)

皮膚の弾力が加齢とともに失われる主な原因として、コラーゲン線維の間をAGEsが架橋する(結びつける)ことが挙げられます。さらに、コラーゲン線維を生成するのは線維芽細胞ですが、線維芽細胞自身も糖化によって生じたAGEsによって害を受けます。皮膚のコラーゲンが糖化し、弾力が損なわれることで肌はハリを失い、これがシワ形成にも関与しているとみられます。一方、老化の特徴である皮膚の黄ぐすみにも、真皮に沈着したAGEsが関与していると考えられています4)

皮膚の弾力性を低下させるAGEsの働きは、紫外線によってさらに強化されます。真皮のAGEsが紫外線にあたると、活性酸素を生成し、皮膚の老化を促すのです5)。また、日光にあたりすぎたことが原因で、顕微鏡下に真皮上層に認められる光線性弾性線維症(solar elastosis:SE)は40歳を過ぎた人の顔面皮膚に好発する皮膚の病気がありますが、その病変部にはAGEsの一種であるカルボキシメチルリジン(CML)が沈着しています。SE発症には主に紫外線Aが関わっていることが明らかになっており、またCMLの生成は紫外線により加速することも報告されています。一般に、40歳を過ぎた人の日光にあたりやすい部分の皮膚にCMLが認められることからも、CMLの沈着には長年にわたり紫外線を浴び続けたことの関与がうかがえます6)

カラダの抗酸化システムの活性化がAGEs抑制につながる

では、どうすればAGEsの蓄積を抑えることができるのでしょうか。

ひとつには、体内の抗酸化システムを活性化させるという方法があります。活性酸素の中でも寿命の長い過酸化水素は細胞老化の主役と考えられていますが、カラダの中でこの過酸化水素を消去する働きをもつのが、細胞の持つ酵素カタラーゼです。カタラーゼと同じ働きをもつPAPLALという化粧品素材7)は、紫外線Aによる細胞老化を抑制し8)、抗酸化能を高め9)、CMLの生成も抑制することが知られています10)

抗酸化作用のある食品としては、ポリフェノール類を多分に含むカシス・ベリー(アントシアニン)、オリーブオイル(オレウロペイン)、緑茶(茶カテキン)、コーヒー(クロロゲン酸類)の他、リコピンの多いトマト、アスタキサンチンを含むサーモンなどが挙げられます。これらの摂取も、理論的にはAGEs生成を抑制するのに有用であると考えられます。

紫外線によるAGEsの生成を抑えるエイジングケア

AGEsが老化因子のひとつであることは明らかです。とはいえ、老化のファクターはそれだけではありません。皮膚の老化を遅らせるためには、糖化を抑えることに加え、抗酸化、紫外線への対策が重要となります。

まず、糖化ストレスを減らす食習慣としては、血糖値が急に上がらないように繊維の多い野菜から食べ始め、またよく噛んで食べることを心がけましょう。もちろん、ジュースやスイーツといった砂糖含有量の高いものはなるべく避けるのが賢明です。アルコールも糖化ストレスを増すため、過剰な摂取は控えてください。

紫外線対策としては、冬でも紫外線A対策がしっかりした日焼け止めを塗ることを忘れずに。日焼け止めには抗酸化剤が入っているか、抗酸化能のあるものを選びましょう。先に挙げた抗酸化作用のある食品も、“食べる日焼け止め”として肌シミ対策に有効です。

皮膚の老化は、普段の食生活や運動習慣だけでなく、紫外線にも大きな影響を受けます。紫外線は皮膚にAGEsをつくるだけでなく、AGEsに作用して炎症を引き起こし、大きなダメージを与えます。見た目の若さを保つエイジングケアには、日頃から紫外線を浴びすぎないよう気をつけることが肝心です。

Profile
市橋 正光 (いちはし まさみつ)
BTRアーツ銀座クリニック 院長
神戸大学名誉教授

専門領域は皮膚科学(光線過敏症、皮膚がん、色素異常症、美容)と再生医療。学会活動として、日本皮膚科学会名誉会員日本研究皮膚科学会会員、日本抗加齢医学会(監事)、NPO幹細胞治療研究機構(理事長)、糖化ストレス研究会(顧問)など多数。紫外線と健康について国内外で講演会やセミナーを行い、テレビ、新聞雑誌等でも広くご活躍されてます。

引用文献:

1) Schleicher ED et al. I Clin Invest. 1997; 99: 457-8
2) Jeanmaire C. et al. 2001; 145: 10-8
3) Verziji N. et al. J Biol Chem 2000; 275: 39027-31
4) Ichihashi M. et al. Anti-Aging Med. 2011; 8: 23-9
5) Masaki H, et al. Biochem Biophys Res commun. 1997; 235: 306-10
6) 多島新吾:AGEsと皮膚疾患. Anti-Aging Med 8: 35-41, 2011
7) Okamoto H. et al. Exp Dermartol. 2012; 21(Supp 1) : 5-7
8) Yoshimoto S. et al. Photochem Photobiol. 2018; 94: 438-44
9) Tsuji G. et al. J Invest Dermatol. 2017; 137: 1582-6
10) Takabe W. et al. Glycative Stress Res. 2019; 3: 22-8

Page Top