糖化ケア講座

2020年9月30日

在宅ワーカーに潜む老化リスク 「糖化ストレス」 とその対策

同志社大学生命医科学部 糖化ストレス研究センター  八木 雅之 教授

生活環境の変化で増加する「糖化ストレス」

糖とタンパク質が反応するとAGEs(Advanced Glycation Endproducts)ができます。この反応を糖化(メイラード反応)といいます。AGEsとなってしまったタンパク質は、もう元には戻りません。さらに、糖化によってAGEsができるとタンパク質が機能を失ってしまいます。糖は生命活動のためのエネルギー源なのですが、余るとカラダの糖化を引き起こすのです。カラダの糖化は私たちが生きている限り避けることができません。

AGEsができるのは糖のせいだけではありません。例えばお酒をたくさん飲むと、それを分解する過程で、アセトアルデヒドができます。また脂肪も分解されるとケトンができます。これらがタンパク質と結合してもAGEsができてしまいます。タバコにもアルデヒドがたくさん含まれているので要注意です。さらに、カラダが酸化ストレスを受けると活性酸素ができ、紫外線を受けるとラジカルができます。これらはAGEsができる反応を加速させてしまいます。最近では、食品の中にもAGEsがあるので、加熱食品を大量に摂取すると、その一部がカラダの中に入ってしまうことも注意が必要と言われています。このように、AGEsができる反応は糖とタンパク質の反応だけでないので、AGEsによりタンパク質の機能が低下することを全体的にとらえることが必要です。このため糖化によるカラダへの影響は「糖化ストレス」と呼ばれています。

2020年、新型コロナウィルスの感染拡大にともない、私たちの生活様式は大きく変わりました。在宅ワークや大学でもリモートワークでの授業が増え、通勤、通学が減少しました。また3密の防止という観点から、スポーツジムやフィットネスジムの利用制限がかかり、外食や宴会の自粛から、内食や家飲みが増加しました。2020年5月時点の食品支出額をみると昨年同時期に比べて麺類や肉、卵、酒類の支出が増えました1)。また、睡眠環境にも影響がみられています。

コロナ禍では、通勤、通学の減少やスポーツ施設の使用制限による運動不足、おうち時間の増加から間食が増加し過食となり、麺類や肉の消費量増加やファーストフードの利用増加による糖質、脂質の摂取過剰、外出できないなどのストレスの増大、生活不安などからくる睡眠不足、これらはいずれも糖化ストレスを増大させる要因です。すなわち、新型コロナウィルス感染拡大により、世の中は以前よりも「糖化ストレス」を受けやすい生活様式になってしまったといえます。

糖化ストレスのカラダへの影響

糖化ストレスのカラダへの影響を一言でいうと、「糖化」は「老化」です。コラーゲンのようなタンパク質が糖化すると、褐色に変化したり、AGEsがコラーゲン分子を結び付けて組織が硬くなります。肌ではまず“黄ばみ”や“くすみ”の原因になり、肌の弾力を失わせる原因になります。肌の弾力は加齢とともに減少しますが、日頃から糖化ストレスを強く受けている糖尿病患者は、肌の弾力が低下していました。この調査結果では糖尿病患者の肌弾力は実年齢からプラス5歳から10歳肌が老けている計算になりました2)。さらに、AGEsがたまっている肌はキメがなくなります3)。そして、見た目でもわかる“老け顔”になってしまいます。

AGEsは動脈硬化の原因にもなります。動脈硬化を起こした血管では、血管壁に粥状のアテロームができます。血中の悪玉コレステロール(LDL)は酸化や糖化してしまうと、通常マクロファージなどがこれらを取り込み掃除してくれるのですが、糖化LDLが多くなると掃除しきれず、泡沫細胞にかわります。これがアテローム層の正体です。糖化が進むとアテローム層にマクロファージのいわゆる食べかすがたまってきて、動脈硬化が進んでいきます。

糖化ストレスは、認知機能の低下を早めます。認知機能は加齢とともに低下することは知られていますが、糖化ストレスを強く受けている糖尿病患者は糖尿病でない人と比べて、年齢が若い段階から認知機能の低下がみられます4)。アルツハイマー型認知症の患者は健常者の約3倍のAGEsが脳内に蓄積しているデータもあります5)。また、認知症患者の脳の組織には老人斑とよばれるシミのような所見がみられますが、この老人斑にはペントシジンやCML(カルボキシメチルリジン)といったAGEsが蓄積しています6)。「認知症は脳の糖尿病」といっている先生もおられます。しかしながら、AGEsがたまったから認知症になるのか、認知症になったからAGEsがたまるのかは、まだ十分わかっていません。

糖化ストレスのカラダへの影響はこれだけでなく、糖尿病合併症、骨粗しょう症や不妊症など、様々な症状との関りがわかってきています

カラダの糖化度は測定できる

AGEsは測定することができます。測定にはAGEsに紫外線をあてると光を発する性質があるので、この原理を利用します。現在、AGEs測定機には腕と指先を測定する2つのタイプがあります。腕のAGEsを測定すると、加齢によってAGEsは多くなり、さらに喫煙、週4日以上の飲酒、6時間未満の睡眠といった悪い生活習慣で、AGEsが蓄積している結果が報告されています7)。睡眠時間が短いと交感神経が優位になり血糖値が下がりにくくなり、これがAGEs蓄積の原因の一つとも考えています。AGEsがたまっている人はMCI(軽度認知障害)の割合が高いという報告もあります8)

また、AGEs測定は将来の生活習慣病発症リスクを予測する手段としても期待されています。指先を測定する装置で、糖尿病患者のAGEsを測定すると、値が高いほどその人が罹患している糖尿病合併症の数が多いことがわかりました9)。糖尿病合併症の数は血糖値の状態の指標として測定される血液中のヘモグロビンA1cの濃度では予測できませんでした。

自宅でできる「糖化ケア」

外での活動が制限された状況下での糖化ケアの方法として、次のことがあります。
① 食後の高血糖を抑える
② 糖化反応を抑制する。
③ 生成したAGEsを分解する
④ 食品由来のAGEsの吸収を抑制する。

食後高血糖を抑制するためには運動が有効ですが、実は少しの運動でも効果が期待できます。糖質を摂った後に、60分後の階段を上る運動をたったの3分間行っただけで、血糖値の下がり方が良くなり、インスリンの分泌も抑えられるというデータがあります10)。食後に眠くなってきたら3分間でよいので、掃除やゴミ出しなどカラダを動かしてみてください。食べ方でも食後血糖値の下がり方は異なります。よくベジタブルファーストといって、野菜をご飯よりも先に食べることを推奨されますが、ヨーグルト(プレーンヨーグルト)でも同じ効果があるのです11)。私も毎日ヨーグルトファーストを実践しています。

AGEsの生成を抑制したり、分解したりする食品成分もあります。スーパーで購入できるような食材でも、AGEsを阻害する成分を含むものがあります12-14)。例えばハーブティーは全般的にAGEsの生成を抑える力が強いのでお勧めです。葉物の野菜は色がついているものがより効果がある傾向があります。フルーツは果糖が多く糖化しやすいイメージがありますが、抗酸化作用のある成分やミネラルなどを含みますので、一概にダメなわけではありません。これらの食材を上手に摂ってください。AGEs化したタンパク質を分解する成分もお茶や野菜の中から見つけており、ウーロン茶や緑茶、ローズマリーなどのハーブに含まれています15)

食品中のAGEsの量は調理法によって異なります。高温や油を利用するものほどAGEsはできやすいので、茹でる<蒸す<焼く<揚げるの順に多くなります16)。さらに焼く前にお酢やレモンを加えることでAGEsの生成を抑えることができることもわかっています。焼肉屋で塩タンを食べることもあるかと思いますが、ぜひ焼く前にレモンをかけてください。私たちは水に溶けない食物繊維(セルロース粉末)がAGEsを吸着することも確認しています。これは、AGEsを摂取してしまっても、食物繊維があれば吸着して便として排出することが期待できるということです。ぜひ揚げ物や焼き肉を食べる際には野菜もしっかり食べてください。

以上、糖が余れば糖化が起こり老化しますが、普段の生活をちょっと工夫することによって糖化ケアができることをお話ししました。飽食の時代となり、ヒトが豊富に糖質を摂るようになったのは、ここ数十年の話です。ですから、ヒトのカラダは過剰な糖に対する防御能力が十分に備わっていません。さらに、このコロナ禍で、ますます糖化ストレスが増大する生活環境になってしまいました。これからは、正しい知識を身につけ、いかに知恵を使って普段の生活の中に、無理なく糖化ケアを取り入れるのかが大切になってきます。

Profile
八木 雅之 (やぎ まさゆき)
同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター
チェア・プロフェッサー教授

HPLCによる測定法や分析カラム製品の研究開発(1990年〜1992年) HbA1c測定法の研究開発(1992年〜2001年) 糖尿病患者向けの機能性食品・化粧品などの研究開発(2001年〜2005年) 糖化対策や抗糖化素材の研究(2001年〜現在) 糖化ストレスと老化・疾患の関係についての研究、糖化ストレスの測定・評価法ついての研究(2011年〜現在)

引用文献:

1) 日本農業新聞 https://www.agrinews.co.jp/p51292.html
2) J Clin Biochem Nut. 43, 66-69, 2008
3) BIO INDUSTRY. 28, 20-26, 2011
4) Psychogeriatrics. 8, 73-78, 2008
5) Proc. Nati. Acad. Sci. USA. 91, 4766-4770, 1994
6) Biochem Biophys Res Commun. 236, 327–332, 1977
7) Anti-Aging Medicine 9, 165-173, 2012
8) Glycative Stress Res 5, 45-49, 2018
9) J. Clin. Biochem. Nutr., 58, 135-140, 2016
10) BMJ Open Diabetes Research and Care 2016;4:e000232.
11) Glycative Stress Research 5, 68-74, 2018
12) Glycative Stress Res. 2, 22-34, 2015
13) Anti-Aging Medicine. 9, 135-148, 2012
14) Anti-Aging Medicine. 10, 70-76, 2013
15) 三橋ら 第14回日本抗加齢医学会発表 (2014)
16) J Am Diet Assoc. 110, 911-916, 2016

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