糖化研究レポート

2019年6月28日

健康長寿のためにはカロリー制限よりも糖質制限?

糖はエネルギー源であると同時に、老化物質AGEsが生じる原因にもなりえます。高血糖に曝される糖尿病患者では、健常者に比べて加齢によるAGEsの蓄積量の増大が大きいことが知られています1)。一方、血糖値スパイクといわれる一過性の食後高血糖は、安定した高血糖以上に臓器障害と関連付けられるようになってきました。血糖値スパイクは、炭水化物に偏った食生活でもおこることがあります。さらに、AGEsの生成には一定の時間がかかると考えられてきましたが、最近、フルクトース(果糖)などでは比較的短時間でAGEsが生じることも報告されました2)。このことから、食品中の「糖質」は、カラダの老化や健康に大きく影響を及ぼすと考えられます。

昔から「腹八分目に医者要らず」といわれ、食事をやや制限することは、健康への近道と考えられてきました。すなわちエネルギー(カロリー)を制限することは健康長寿に良いという考え方です。2009年に学術雑誌「サイエンス」で、カロリーが70%になるように食事制限をしたアカゲザルは、100%食べさせたサルよりも生存率が延長したと報告されました3)。しかしながら、2012年に学術雑誌「ネイチャー」で発表された研究では、カロリー制限と無制限のサルに生存率に差がなかったという報告がなされました4)。さらに、カロリーの制限は、骨密度の低下や、筋肉量の減少などの問題も指摘されています5, 6)。カロリー過多はもちろん体によくありませんが、単にカロリーを制限すれば長寿になるとはいえないようです。

日本では、1日の摂取エネルギーに対し、タンパク質は13-20%、脂質は20-30%、炭水化物(糖質)は50-60%(糖質として1日に270~300g)の比率が推奨されています7)。Santosらは17件の糖質制限食についての研究を解析し、血糖値、脂質、体重、血圧に対して、改善を示し、メタボリックシンドロームや糖尿病の治療に有効であるということを示しました8)。日本においても糖尿病患者を対象に、緩やかな糖質制限食と、カロリー制限食に振り分けた食事指導が行われ、糖質制限食を指導した方は、血糖値や中性脂肪の改善が認められました9)。このような穏やかな糖質制限はロカボ(Locabo)と名づけられています10)。極度の糖質制限は、食事に強い制限がありそうですが、このような緩やかな糖質制限は、工夫次第では誰でも手軽に、病気を予防できる手段なのかもしれません。

引用文献:

1) J Clin Invest 91, 2463-2469 ,1993
2) Diabetes 65, 3521-2528, 2016
3) Science 325, 201-204, 2009
4) Nature 489, 318-321, 2012
5) J Gerontol A Biol Sci Med Sci 70, 1097-1104, 2015
6) Am J Clim Nutr 105, 913-927, 2017
7) 日本人の食事摂取基準2015 厚生労働省 
8) Obes Rev 13, 1048-1066, 2012
9) Intern Med 53, 13-19, 2014
10) 糖質制限の真実 幻冬舎 2015

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